★ 世界の電気自動車、特にBEVと言われる蓄電池主導のEVは、行き過ぎの見直し段階に入っているが、ちょっと大げさだが、ここらで、人類としてのEVの推移を振り返ってみたい。
【1】19世紀にガソリン車に軍配: 
・まず、19世紀に自動車が登場した最初の頃、ガソリンエンジン車でなく、EVが試されたが、結局、実際的な蓄電池が難しく、EVは消え、その後、ガソリン車ばかりの世界になった。その圧倒的・決定的理由は、ガソリンのエネルギー密度と、電池のエネルギー密度ではまるで勝負にならなかったからで、この「勝負あり」が実は今でも続いている。
【2】1990年代の地球温暖化運動で、政治的に極端に「EVが救世主」視され、政治主導のEVシフトへ:
・地球温暖化は人為CO2が主因と想定し、脱炭素の政治運動が特に欧州環境派主導で開始。「EVは全くCO2排出しない」という「政治的思い込み」で、政治的・人為的にゼロエミッション(ZE)運動が欧州や米国Ca州などで始まる。
・EVは、一定以上の航続距離と常識的に可能な程度の充電インフラを前提にすると、巨大な蓄電池搭載を必要とするが、その為以下になっている。
①その蓄電池のコストのため、ガソリン車より2-3百万円とか高いものになる・・・こちらの問題は、各国の政府がそれを消す膨大な補助金で人為的に市場投入して対応してきた。
②更に、イ)実は蓄電池の製造過程(特に乾燥工程)で運転数年分の電気を消費して しまう「電気消費のお化け」であること、ロ)充電に中国のような半分以上石炭火力の電気でやると、ちっとも脱炭素でないこと、この両方のため、いわゆるLCA(Life Cycle Assessment)べースではちっとも脱炭素でないことを指摘する(トヨタなどの)声があったが、環境派から封殺されてきた。
⇒ <溝口主張A> 
上記②の方からだが、「EV=地球環境を救う救世主」みたいな、環境派の歪んだ政治キャンぺーンに世界の報道機関も抗うこと少なく、トヨタのように(私もだが)LCAベースでのEVのCO2放出を指摘してきた声を封殺してきた世論の責任は大きい。
 ⇒ <溝口主張B>
上記①のコスト高のほうだが、19世紀に自然に消えたEVを、コストがバカ高いのに、政府が各国で膨大な補助金を出して、全く人為的に市場投入してきたのだ。
・・・それを全体で3.5兆ドルの巨大な世界の自動車市場でやるという、人類史上でも歴史に残る規模での「非市場主義製品投入」を、人類はやってしまったのだ。という自覚に乏しい人が多いのにも驚く。 
   ・・・ここで「市場の人為操作」の手法を振り返ると、人類は、新しいがコストバカ高のEVを「高いが地球を救う救世主」と見做して、政府補助金で値下げし、ガソリン車並みの価格にする手法を採った。  
   ・・・しかし、そもそもの出発点は、ガソリン車がCO2をまき散らし地球温暖化させているという認識モデルだ。なら、理論的には、人類はむしろガソリン車に「炭素ペナルティー」を賦課する手法も検討すべきであったと思う。
・・・勿論、そんなことしたら、庶民、特に自動車文化の米国市民が自動車の賦課金入り価格の大きな上昇に強く反乱を起こしたであろうし、そもそも欧米の自動車メーカーが絶対反対したであろう。
・・・しかし、ガソリン自動車が真に地球・人類の敵であれば、国民にそれくらいの賦課を課すことへの説得に注力しても然るべきであったのだ。・・・つまり、ガソリン車に賦課金を課し、EVはそのような賦課金入りのガソリン車価格に対抗できる合理化価格で、市場原理での勝負する、これが本来の自由主義経済のやり方であったはずだ。・・・しかし、欧州の環境派も、その辺になると安易な道を選んだのだ。ガソリン自動車は賦課金なしの安いままにして、EV価格を補助金で大幅値下げする統制経済の道を選んだのだ。ここに人類の悲劇がある。
【3】その悲劇の、人類の市場人為操作に待ったをかけたものは中国EVなのだ!:
  【2】に書いた、欧州主導の「人為的な市場操作型のEV投入」が突然見直しになったのは、安価な中国製EVの欧米市場への乱入である。
 ・・・そして、中国のEVが何故安いのか? ここに欧米の悲劇的なアイロニーがある。・・・中国のEVが安いのは2つの理由だ:
 ① 政府補助金: 政府が消費者への補助金、メーカーへの補助金、充電インフラへの補助金を膨大に出してきた。
 ② 今や世界最大の自動車市場(年に3千万台)を自国内に持つ。 それを利して、蓄電池の大量生産し、蓄電池のコストを大幅に引き下げてきた。
 ・・・①の政府補助金は、欧米日、みながやっているから、中国も正々堂々とやってきた。欧米日が自由主義経済を逸脱しているのだから、中国は怖いものない。
 ・・・しかし、最大のアイロニーは、そうこうしている間に、中国のEVは、そろそろ政府補助金なしの自由主義経済原理でも、もう自力で安く売れるところまで来ている点だ。市場規模が中国ほど大きくない欧米のメーカーはこれからも国家補助なしでは自由主義の中国EVに太刀打ちできないのだ。
 ・・・EV至上主義であった特に欧州環境派がここにきてEV見直しを考えざるを得ないのは、自分らが生み出した「非市場主義のEV」が、今や「市場主義原理でも安い中国のEV」という予期せぬバケモノを産み出してしまったからなのである。しかし、自らの過ちを反省もせず、中国EV締め出しの関税などの、いよいよ非市場的手法に走ろうとしているだけだ。何という偽善的な人たちだろう。
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◆ EVは、今、曲がり角であるが、私が本来の正解と言っている「両方のいいとこどり」のPHVの見直し採択などを含めつつ、EVも次第に普及していくであろう。・・・しかし、ここ30年の人類のEVのドタバタ推移は、人類の醜さをモロに露呈したものと言わざるを得ないと思う。・・・・これが私のEV観だ。どうだろう???  

                   Nat
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<10月25日加筆>
★上記記事を書いたら、ちょうど、TeslaがQ3の業績を発表。これまで苦戦していたのが、若干とも好転の成績を出している。
・・・私のリアクション:
(1)本文にも書いたとおり、世界のEV 市場は、特に今、欧州メーカーなどが曲がり角にきているが、中国を中心に全体としては、伸びていく(なくなったりガソリンに戻ってしまたりはしない)という見方は変わりない。
(2)一方、Teslaの3Qの好転は、以下の要素からだろう。
①中国の上海の巨大工場で生産している同社のEVが中国で結構売れている。・・・結局、これ中国メーカーとしてのTeslaだ。
②中国で中国の蓄電池メーカーに作らせている蓄電池が、大量生産の規模の原理とT社の技術開発の相乗効果でコストダウン、粗利益率を向上させていること。・・・これも中国メーカーとしてのTeslaとしてである。
③一方、米国でも3Qの販売は価格も下げ、頑張ったようだが、米国では、本文に書いた通り、連邦政府が価格下げに価格補填をしているから、T社も米国では、私の言う「人為的市場操作」型の事業であるとの私の基本認識に変わりない。もっともT社はそれなりに、種々工夫をしてきているのも事実だが。 〆