★日本の今後の電力問題シリーズの、原発部分の続編:
・・・岸田政権が石破政権にシフトするが、岸田政権の実施した施策の多くは、得意の「場当たり対症療法」だったが、私の思うに、岸田政権が思い切って打ち出した数少ない政策の一つが、昨年発表した原発政策の転換だろう。
・・・3つのポイントがある: ①再稼働促進に国が前面に乗り出すこと、②40年の稼働期限を延長、③新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発/建設を検討。
・・・それぞれに少しずつ言いたいことはあるが、一番言いたいことがあるのが、③である。
◆ 本当は、今後の日本の将来を考えると、再稼働出来た原発でも50歳、60歳となっていくし、まだ数も足りないから、日本が本質的に必要としているのは、圧倒的に、新しい原子炉の新設・増設なのである。・・・概ね、既存の原発立地で古く廃炉した原子炉の跡地、あるいは可能であれば、敷地内の増設である。
◆ 岸田政権の昨年の政策だと、一気に急いで転換し過ぎると、直ぐ強烈な反発が出るから、緩々と転換している。昨年の緩い政策でも、例の東京新聞がいつも通り、即「福島大事故の教訓を忘れたか?!」と書いたくらいだ。・・・だから、岸田政権は新増設については、敢えて「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発/建設を検討」なんてことで、将来のもっともっと安全かも知れない新しい技術での原子炉を研究開発しましょうね・・・なんていうニュアンスに聞こえることに留めたのである。
◆ これに対して、以下のことを言っておきたい。
【1】問題は、この「次世代革新炉」という言葉が何を指すかである。・・・この政策が出た政府のGX会議の場では具体的な炉の種類には言及なかったと理解するが、その後の報道で、皆が解釈したのは、SMR(小型炉)、高温ガス炉、高速炉などだ。・・・しかも、SMRが既存の軽水炉の技術を小型化で革新するものと吹聴されたことから、政治家でもSMR、SMRという人が結構いるように見受けられる。
【2】しかし、言っておきたいが、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉」は、SMRのようなイカガワしいものをイメージしなくても、「既存の軽水炉の最新型」が既にそれなのだ。
・・・欧州では欧州加圧水型炉(EPR)という最新型が既に、新しい原発では採用され、建設中である。
・・・また、日本のメーカーでも三菱重工も既にSRZ1200という名称で、コアキャッチャ(溶融デブリを格納容器内で確実に保持・冷却する設備)を備えた最新型をもっている。欧州と違い、日本ではまだ「新設」「増設」が出来ないので、三菱重工のSRZ1200もまだ「開発品」という位置づけだが、そもそも新設・増設が出来るとしても、審査・建設・社会的受容に20年、30年の時間がかかるのだ。だから、それまでに、現在の三菱重工のSRZ1200なども全くの「既存技術」になっているだろう。
・・・つまり、岸田政権は敢えて「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発/建設の検討」などと言い、研究開発テーマっぽい響きに抑えたのだが、実際にはもう最新の原子炉は「今日に可能なもの」に近いのだ。政策的に決定することこそが最大のハードルだろう。
【3】最後 にSMR(小型炉)なる「イカガワしい」ものについて一言言っておく。
・・・本日の日経新聞に、ロールスロイスがチェコのSMRの受注したといった記事あり、コピー添付するが、これは、1000MW超の普通の大型原発が余りにも予算額が大きいので、ケチって中型炉(470MW)で済ますというのが本質と思われる。一応、小型のモジュール化したものらしいが、どこまでそれで行けるか見ものだ。世界で、商用化にこぎつけたプロジェクトはどこもない。
・・・というのは、SMRはだね、そもそも原子力潜水艦等の中の原子炉みたいに、しょうがないから小型炉にしたものが昔からある通り、小型にすることは出来なくはないが、余りにもコスト効率悪いから、原発は大型化してきた。SMRはその逆を狙う。従来の原子炉を小型に切り刻み「キット」(モジュール)化して、工場で自動車みたいに大量生産したら安くできるだろ、という発想だ。更に工場で作ったモジュールをレゴみたいに組み立てたら、原発が比較的短期で出来てしまうという触れ込み。

・・・しかし、もしSMRが将来世界中に広まって、自動車みたいに何千、何万個のSMRが大量生産されたら、コスト効率は上がるかもしれないが、最初の頃のSMRは、大量生産すべき自動車を全部手造りするようなものだから、バカ高くなる。米国では既に、SMRを手掛けていたニュースケール社が、余りのコスト高に閉口してプロジェクトを一旦断念している。
・・・そして、SMRの個々のキットが小さいので、大型のプールにずらっと並べたら、いざ大事故の場合もプールの水で自然に冷却されるだろという話だ。だから個別のキットにお金のかかる冷却装置はつけない手抜き方式だ。しかし、しかし、万がいち、大プールにひびが入り水が抜けたら、もう冷却の手段がない。あ~~こわ。
・・・大量生産だから、一個に瑕疵が見つかれば、全部、リコールになる。アカン。無理。
・・・以上の通り、全く「イカガワしいもの」でしかない。一応、中国、ロシアなどで実験、開発がされているが、私はダメと思っている。
・・・一方、現行大型原子炉の最新安全版はもうあるのだ。あとは、日本国として、20年、30年後にはなろうが、新設・増設は必須とのポリシーを固め、今日から準備を始めることである。 Nat

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