★ 岸田首相の施政方針演説 --- 全文が報道されているので、まず首相が「経済、経済、経済!」という「経済」につき、彼が何を言っているかを見てみよう。そしてコメント(⇒マーク)を記していこう。

【1】”物価高に負けない賃上げ”:
(1)まず政府自らが決めて進めやすい「公」分野の賃金の賃上げを言っている: 医療・福祉・公共サービス関係。⇒ つまり、この話から始めるということは、民間の賃上げを政府が “実現” することの難しさを分かっていることの裏返しと見れる。
(2)その上で、これも難しいと分かっているようで「中小企業やパート、非正規」の賃上げを課題として言っている。
・・・施策としては:
①「赤字企業にも効果のある賃上げ税制の拡大強化をしました」⇒ 税金払えてない赤字企業が多いのだが、減税効果を5年繰り延べ出来るようにした。しかし、まあ、そんなもんで賃上げする中小企業は極く限られている。
② 「(賃上げの価格)転嫁を後押しする公正取引委員会などの強力な指針も作りました。」
⇒はい、昨年11月に公取委は(強い立場の)発注者企業が納入業者の賃上げの価格転嫁を受け入れる経営姿勢・体制を敷くことを勧告する指針を出した。⇒ しかし、これも昨日ここで書いた通り、納入業者自身が過当競争で自ら値引き提案などをしてくるのだから、「指針」は上空を素通りしているだけだ。
③ あと個別各論で、イ)パートの年収の壁問題への取り組み、ロ)トラック運転手の適正賃金に係る法案を出すこと、ハ)建設労働者の賃金の目安化
・・・以上を書いた上で、「本丸は、物価高を上回る所得の実現です。あらゆる手を尽くし、今年、物価高を上回る所得を実現していきます、実現しなければなりません。」、そして「政労使の意見交換において、昨年を上回る賃上げを強く呼びかけ」と言って締めくくっている。
⇒⇒ 以上から分かるだろう。直ぐやれそうなことはちょっとやってきているし、更にやると言っているが、本質的に民間の自由主義経済活動の結果でしかない「賃金の決定」を、政府が誘導できる余地は限られるのだ。特に過当競争に明け暮れる中小企業、日本経済の太宗をなす中小企業の賃上げは、減税やら、指針やらでは全く何ともならない。昨日も書いている産業の根本的な再編・統合を先にしないと何もならない。今の中小企業に賃上げさせようとするのは、寝ている病人に小銭を与えて「走ってみろ!」というに等しい。
【2】”稼ぐ力の強化”:
⇒ 賃上げの話の後がこれ!! お~~~お!! ヒジョーに適切!!
・・・しかし、中身を聞き・読むと失望が激しい。非常に短く、中身がない。
「設備投資の拡大」として:
①「国内投資促進パッケージでは、水素や半導体など未来志向の戦略的投資を促進するための税額控除措置」
② 「中堅・中小企業の省力化投資の支援措置」
③ インフラで「震災復興、リニア新幹線、自動物流システム」。
を書いているだけだ。
⇒ 日本の中堅・中小企業の「稼ぐ力」が乏しい本質的背景は、設備投資が少ないことではなく、日本のムラ社会産業構造の中で、業者が異様に多数乱立、超過当競争しているからと、私は毎日書いている通りだ。経産省は前からこれを指摘しているが、中小企業オーナーの票に支えられる自民党には、その事実認識も、関連の施策追求は無理だ。野党にも難しいが。・・・上記の岸田演説のように、水素・半導体なんかに国費投入しても、大半の業界での中小企業の「稼ぐ力」は全く強化されない。
◆ 岸田演説の「経済」関係はそんなものだ。あと、GX(グリーン)とかイノベーションとか資産運用とかの項目はあるが、無意味なので、省略する。
・・・そして、日経朝刊が一面トップ記事で、岸田演説への応援記事を書いている。
・・・日経曰く『施政方針演説で「2024年に物価高を上回る所得を実現する」と公約した。春季労使交渉(春闘)での賃上げに加え、6月の所得税・住民税の定額減税による底上げに期待をかける。』・・・岸田政権は、①春闘での賃上げを後押ししつつ、②定額減税(例の4万円)で国民の所得を支えるだろう、という話だ。
・・・その上で、日経は「解説」として『23年春闘の賃上げ率は3.6%と30年ぶりの高水準だった。首相は政労使会議で「昨年を上回る水準の賃上げ」を求めてきた。演説で「これに呼応する動きが広がっている」と指摘した。』とまで応援演説をする。
⇒ ⇒ もう何度も書いている通り、イ)春闘の「3.6%アップ」なんてものは概ね大企業の賃上げアドバール―ンの数字で、また、定昇・賞与アップなども含めた「水増し賃上げ」の数字でしかない、ロ)中小企業まで含めた全日本べースで、定昇・賞与アップ除外した厚労省発表の「月給ベースでのベア」では1.2%しかないし、ハ)更に、中小企業まで入れ、賞与等まで入れた総合では、逆に更に低く、もう0.2%とほぼ「横這い」(実質賃金の2~3%目減り)・・・これが実態であることは、例えば以下の拙文に詳述した通りだ:拙文
・・・しかし、日経は、実際の岸田演説の「口ほどにもない賃上げ・経済施策」に、健全な報道機関として切り込み批判するのではなく、上記のような春闘云々という「水増し宣伝メッセージ」でひたすらに岸田政権の応援を報道するのである。・・・今日も、私は非常に遺憾である。
Nat
